2007年06月28日

*車牽く男   *文字で描く絵

*車牽く男

荷物を牽いて あの男が通る
からだは陽に 焼き尽くされ
喉元辺(あた)りも 真っ赤な酒焼け
焼酎だけが 唯一の楽しみ


年令の頃なら はや四十路(よそじ)
少し知能も 劣るとの噂
でもあの顔だち あの体つき
心なしか 父親のそれに似て
永らく会えぬ 面影をさぐる


物心つく頃より 父親不在
海南島へ 出かけたと聞く
もとより音信 ある筈も無く
まさかに車を 牽いてもいまい
無事に暮らして いるのだろうか


男は酔って 車を牽き牽き帰る
喧嘩の挙句か 躓(つま)ずいたのか 
毛脛(けずね)の脚に 血が滲む
こんな男を 何故に気にする
所詮は 他人に過ぎないのに




*文字で描く絵

寡黙(かもく)に過ぎると 云われつつ
呑み込む言葉 綾(いろ)となし
心の内 に 絵を描く



線描 点描 なぐり描(が)き
画材は 胸のうちに置き
ひとには見せぬ 筆使い



募(つの)る思いを 色となし
画面に荒ぶ 陰と影
心の中の 修羅を描く





 次回から「 日溜り 」をご紹介します。

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2007年06月27日

*涙

*涙

小屋の裏手で 女の子が泣く
サーカス団の 小さな一員
独りで切なく しゃくりあげる
鼻に刷(は)いた 白粉ひと筋
涙に流れて 頬に伝う


錦糸の縫いとり 青の服
照明(あかり)の下では 華やかでも
陽にてらされれば それなりのもの
でも君はまだ 良いと思うよ
いろんな街を 渡り歩ける


客の前では お姫さま
見る人々を 楽しくさせる
この一団には 親兄弟も居て
幸せだって あるだろう
熊や犬猿 鳥たちとも仲良し


叱られたのか 寂しいのか
涙が出るのは まだましなのだ
一緒に暮らす 仲間も無しに
泣いてはいられぬ 立場もある
涙も枯れた 子供も居るのだ 




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2007年06月26日

*夜空  *習性   *望郷

*夜空

やり切れ無さに 家を抜け出て
   寒夜の道を 何処ともなく歩く

歩き回って どうなるでもなし
   ふと気がつけば 川沿いの道

川面の闇に 密かな気配(けはい)
   いつしか小雪の 舞い散るを知る

藍の空から 湧き出て降った
   見上げる頬に 溶ける淡雪

この雪を 逆に辿(たど)れば 
   夜空に居場所が 見つかるかも



*習性

昆虫の一生は 習性によって終わる
 永い間に 培(つちか)われしもの
定められた とおりの行動(うごき)
 ファーブルは 昆虫記にそう説く
それに比すれば 人間は自由
 
 でも本当に そうかなあ
身近の人達 見ていると
 功を望み 金も欲しがる
人間の習性の 根源は我欲
 行動の様相(さま)は 多岐多様(おおき)に渡る 

今人間嫌いに ならないのは
 稀に清潔(きれい)な人を 見出すから



*望郷

かぼそ気に 星はまたたき
吹く風に 吐く息白し
踏む土も 草も凍りて
遠く家並みの 灯火仄(ともしびほの)か

帰るあてなき 足先重く
家路を辿る 人影も無し
昇る朝陽(あさひ)を 神に希(ねが)いて
見知らぬ駅舎の 夜に泊まる

仄(ほの)暗き 裸電球
迷える犬の 遠吠えひとつ
列車の響き 絶えて久しく
捨てられし身の 想いに浸る 




 いのもと少年は、この頃にお母様は天草のご実家で療養され亡くなられます。
 親戚に預けられていた頃の作品です。
 戦争末期、食糧難の時代、預かるほうも預けられるほうも大変困難だった事でしょう。

 
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2007年06月24日

*心の虫  *死   *砂

*心の虫

蚕は口から 糸を出し
己れの周りに 城築く
   まるく滑らか 糸の城
   人 その城を 繭(まゆ)と呼ぶ


繭に籠(こも)った その虫は
黒く乾いた 暗い虫
   さなぎと化して 世を過ごす
   繭に守られ 身を隠す


寄る辺(べ)なき児(こ)に 城は無く
己れの心に 繭を持つ
   繭の内容(なかみ)は 暗い冬
   ただひたすらに 春を待つ




*死

凍(い)て蝶の 弱々しき舞い
 しろじろと花 宵闇に咲く
蝶は地に堕ち 花萎(しお)る
 我もまた 闇に溶け込む





*砂

陽に温められし 川砂に
   座して流れの 音を聞く


指に掬えば さらさらと
   砂は零(こぼ)れて 風に散る


両手に水を 汲みあげて
   盛りたる砂の 上に注(さ)す


濡らせし砂が わが玩具
   虚ろに砂の 城 築く   

Posted by 葡萄 at 23:43Comments(0)「 心の虫 」